色のある毎日をつくる Vol.01
スタイリスト伊藤まさこさん× FARROW&BALLブランドディレクター秋山千惠美
好きな家具やものに囲まれ、過ごす日々。
その背景となる「色」が決まれば、毎日の暮らしはさらに輝きを増します。
「FARROW&BALL」のペンキを長年ご愛用のスタイリスト・伊藤まさこさんの色選びの秘訣とは?
同ブランドディレクターでカラーデザイナーの秋山千恵美がうかがいます。
Vol.1 好きな色を暮らしの中に
ペンキなら、着替えるように塗り替えられる
伊藤 「FARROW&BALL」(以下、F&B)のペンキをに出合ったのは、2016年くらい?もう10年も前になりますよね。当時住んでいた家のキッチンの内装をしてくれた知人が教えてくれたのがきっかけでした。
秋山 キッチンの壁に深いブルーの〈No.281 STUFFKEY BLUE〉を塗っていただいたんですよね。
伊藤 その後に引っ越した家でも、リビングの壁に〈No.47 GREEN SMOKE〉を。「どこのペンキの何色ですか?」と、本当によく訊かれました。
秋山 ありがとうございます。おかげさまで当社で取り扱っているF&Bのペンキの中で、いちばんよく売れた色です。
伊藤 最初にブルーのペンキを塗るときは、ちょっと冒険かな? と思ったんですが、たとえ失敗したとしても塗り直せばいいやと思って……。壁の色を変えるだけなので、間取りを変えるとか、壁を壊すとか、そういう大きなこととは違いますから。
秋山 その通り。「塗り直せばいい」というまさこさんの言葉に、とても共感し、励まされました。私たちはこれまで洋服や家具選びなどにいろいろ挑戦をして、その中で、自分にはこの色が合うんじゃないかという答えを探してきたじゃないですか。
伊藤 そうですね。失敗もしながら。
秋山 でも、こと住まいに関しては、そうした冒険ができていないんですよね。一度決めたらそのままで、気に入らなかったり飽きたりしても諦めてしまっていることが多い。でも本当は、もっと気軽に……そう、服を着替えるように変えればいいんです。
伊藤 壁紙を剥がすとなると大変ですが、ペンキなら、上から塗ればいいわけですよね。部屋の全部の壁でなくても、たとえば一面だけでも、かなり雰囲気は変わりますし。
秋山 ええ。そうやってお気に入りのスペースができれば、それが自分流のリノベーションになる。工務店さんにお願いしてやるだけがリノベーションではなくて、小さなペンキの缶1つあれば、壁1面をセルフ・リノベーションすることは十分可能ですから。
伊藤 コロナ禍以降、リモート会議などで自分の背景を見る機会が増えたこともあって、今、壁の色をあらためて意識し始めた方が多いんじゃないかと思うんです。
秋山 ですよね。壁もインテリアの一部だということに、お気づきになった方が増えているはずです。
伊藤 好きな器を買うとか、いい家具を選ぶとか、そこまでは来ているような気がしますが、それをもう少し拡げられないかなと思っていて……。絵画やアート作品を選ぶように、壁の色を好きなように選べたらいいですよね。
実践・海の見える熱海の部屋をスタイリング!
秋山 そんなお話をしていて、いつか一緒に何かできたらと思っていたんですが、最近、それがやっと実現できました。熱海の高台に建つ古いマンションの一室を当社が購入しまして、そのメゾネットの部屋を、まさこさんにカラーコーディネートしていただいて。
伊藤 気持ちのいい風が吹く、素敵なお部屋でしたね。
秋山 間取りを見るとか何とかより、「とにかく行っちゃいましょう!」と熱海に出かけましたね。
伊藤 そうそう。案をいくつか考えて、ということではなく、直接現地に行って決めたと思います。
秋山 そうはいってもなかなか決まらないんじゃないかと、実は、私たちでも案を考えていたんです。海を臨むリゾート地らしく、ちょっと非日常的な雰囲気にしたらどうかと……。でも、まさこさんにお伝えしたら、ちょっとプロっぽすぎるんじゃない? というご意見をいただいて。まさこさんの色を決めるまでのプロセスが、またすばらしくて。なるほどなぁと。
伊藤 それでお任せいただいて、選んだ1階のリビングの基調色が〈No.299 DE NIME〉。理由は……好きな色だから(笑)。コーディネートした家具のいくつかも、同じ色で塗っていただいています。
伊藤 私の選ぶ色は白とグレー、ブルーグレーが基本ですが、F&Bのペンキは、どの色も本当にしっくりくるんですよね。ひとことで白といっても、いろんなタイプの白があって。対面の壁は、落ち着いた白の〈No.274 AMMONITE〉にしました。
セブンチェアは〈CB10 LIQUORICE。
同じ部屋でもコーナーごとに違った表情が生まれる。
秋山 地階へ降りる螺旋階段と降りた地階の天井、壁のドット柄の壁紙も〈DE NIME〉〈AMMONITE〉と同じ傾向の色を選んでいただきました。
F&Bでは壁、金属、木材など素材ごとに適したペンキが揃う。
壁紙には〈CB8 SARDINE〉のドットをスタンプした壁紙〈BP5904 DOT〉を。
伊藤 反対側の和室の襖には、波の柄の壁紙がすでに張られていましたよね。私だと選べない柄だから、面白いなぁと。
奥の壁にも深みのあるブルー〈No.281 STIFFKEY BLUE〉をチョイス。
秋山 阪神大震災の時にF&Bが日本を応援しようと作ってくれた〈BP4605 ARANAMI〉という柄です。海つながりで。しかし、全部の色を決めるまでにかかった時間は、ものの30分ほど。そして、リノベーションが完成したのちに、家具や雑貨をスタイリングしていただいて撮影をしましたが、そのすべてが壁の色と調和していて、さすがだなと……。
内部に壁紙〈BP6003 CHECK〉を張り、棚板は天井と同じ〈C B8 SARDINE〉で塗装。
伊藤 それはもう、30年くらいやっていますから(笑)。
秋山 いえいえ。伊藤さんの頭の中にはこうしたものの色のバランスがすべて入っていて、壁もその中にきちんと組み込まれてコントロールされているんだなと、あらためて感心させられました。
伊藤 ちょうど私が軽井沢に作った森の家への引っ越しを控えていたので、そこで使う家具も併せてF&Bのペンキで塗っていただいたんです。家にあった古い茶箪笥や娘が学校で作った椅子などが、まったく新しい雰囲気になって……。ペンキと仲良くなれば、家の中にもっと色を取り込むことができるんだなと感じましたね。
撮影/有賀 傑
→Vol.2につづく(1/24アップ予定!お楽しみに♪)
いとう・まさこ/スタイリスト
1970年横浜生まれ。著書に『ザ・まさこスタイル:あたまからつま先まで』(マガジンハウス)『おいしい時間をあの人と』(朝日新聞出版)『まさこ百景』(ほぼ日)『あっちこっち食器棚めぐり』(新潮社)『する、しない。』(PHP研究所)など著書多数。Webサイト「weeksdays」では、自らセレクト・プロデュースした衣食住にまつわる品を紹介、販売している。https://www.1101.com/n/weeksdays/
秋山 千惠美/FARROW&BALLブランドディレクター
Farrow&Ball日本総代理店カラーワークスの副社長兼Farrow&Ballのマーケティングディレクター。色でブランドを作る。伝える。を軸に 住宅から、店舗まで空間のカラーデザイン、企業のブランディング、商品開発など、幅広く活躍するカラー・コミュニケーションデザイナー。 色彩を研究・分析する アメリカのカラー マーケティンググループの日本人唯一のボードメンバーとして、海外でも活躍中。一般社団法人日本カラーマイスター協会の代表理事も務める。